個人事業の法人成り


1. 法人成りの意味

法人成りとは、税務の実務界で使われている用語で、個人事業を法人化することです。この法人成りをする場合は、個人事業の所得税と、個人事業が法人化された後の法人税の2つの分野で、必須の税務が発生します。納税者にとって、2つの税の狭間の問題が一番、得をしたり損をしたりする領域です。必勝の法人成りのためには、何にどう注意したら良いか考えてみましょう。

2. 個人事業の法人化のタイミング

良くある質問(FAQ)の一つに「個人事業はいつ法人化すれば良いですか?」という問題があります。結論としては当事務所ではシミュレーションの結果、お答えは「個人事業で年間400万円(月33万円)前後の利益がでる状態になったら、その個人事業は法人化した方が有利ですよ」とお答えしています。 さあ、それが正しいかどうか検証してみましょう。 個人事業主の税金は、所得税と住民税の2つから成り立っています。社会保険料は別の戦略項目ですがここでは論外とします。「所得税と住民税の合計で幾ら税金が掛かるの?」という疑問にお答えします。次の速算表(住民税均等割りは度外視します)が回答です。

課税所得(TIと表記します)

  求める税額の速算式

 

195万円以下

 TI ×15%

196万円以上

330万円以下

 TI ×20% -  9.75万円

331万円以上

695万円以下

 TI ×30% -  42.75万円

696万円以上

900万円以下

 TI ×33% -  63.6万円

901万円以上

1,800万円以下

 TI ×43% - 153.6万円

1,800万円以上

 

 TI ×50% - 279.6万円

?備考:住民税均等割り4,000円は僅かですので、概要把握のため省きます



上記の表で、個人事業主の事業所得400万円の課税所得は、いくらでしょうか? 課税所得は、事業所得(事業の利益)から、所得控除をする必要があります。 その所得控除の一覧表(平成22年分)をお示しします。

所得控除

 対象者の区分等

所得から差し引く控除額

配偶者控除

一般の控除対象配偶者

最高38万円

配偶者特別控除(収入のある配偶者の控除)
配偶者の合計所得金額に応じた控除額
380,001円~399,999円   38万円
400,000円~449,999円   36万円
450,000円~499,999円   31万円
500,000円~549,999円   26万円
550,000円~599,999円   21万円
600,000円~649,999円   16万円
650,000円~699,999円   11万円
700,000円~749,999円    6万円
750,000円~759,999円    3万円

扶養控除

一般の扶養親族

 38万円

特定扶養控除(16歳以上22歳以下)@

 63万円

老人扶養親族

同居老親

 58万円

それ以外の老人扶養親族

 48万円

同居特別障害者

特定扶養親族(16歳~22歳)@

 98万円

それ以外の同居特別障害者

 73万円

同居老親等

 93万円

それ以外の老人特別障害者

 83万円

障害者控除

一般の障害者

 27万円

特別障害者

 40万円

寡婦(寡夫)控除

一般の寡婦(寡夫)

 27万円

特別の寡婦(寡夫)

 35万円

医療控除

医療費-保険金-合計所得金額×5% 
(10万円以下切捨て)

200万円

社会保険料

その年分に支払った領収書に記載された額

支払い額

小規模企業共済等掛金控除

支払い額(全額)

支払い額

生命保険料控除

生命保険料控除                最高5万円

個人年金保険料控除              最高5万円

地震保険料控除

地震保険料

最高5万円

合計で
限度5万円

旧長期損害保険料

 最高1.5万円

寄付金控除

特定寄付金の支出額-2,000円  (合計所得金額の40%限度)

備考: 住宅控除については税額控除です。
居住の時期(年度)により、借入残高×1.2%又は1.0%
最高控除額は、10年間の合計で、600万円~300万円



さて、個人事業主の事業所得400万円から、上記の所得控除額の合計を差し引きます。
その差し引き後の金額が、課税所得金額(課税の対象となる金額)です。ここでは基礎控除38万円だけ差し引いて置きます。皆さんは各自の計算をするとき、ご自分の状況に合わせて所得控除して下さい。
   400万円-38万円 = 362万円(所得税の課税の対象になる課税所得金額)
   この362万円に、税率を掛けるだけで、個人の税金合計が出てきます
         答えは; 65.85万円
   これが1年間に支払う所得税と住民税の概算合計です。

3.  法人成りの研究

この個人事業の税金の額を何とか減らしたいという話が、法人成りの原点です。
どうすれば良いでしょうか?
お答えは、個人事業の法人化(法人成り)です。
法人成りすれば、どうなるのですか?
個人事業が法人成りすれば、いろいろのメリットがありますが、中でも事業主が給与(役員報酬)を取れるということです。
役員報酬は何か良いことがあるのですか?
給与は、給与所得控除ができ、給与の額が即、課税対象にはなりません。
幾ら税金が安くなるのですか?
給与所得控除分だけ、課税対象の課税所得金額が減ります。

給与所得控除額は次の表で計算できます。

 給与等の収入金額(S)

    所得控除額

        65万円以下

     全額

  66万円 ~ 162.5万円

     65万円

  162.6万円~ 180万円

 S × 40%

  181万円 ~ 360万円

 S × 30% +  18万円

  361万円 ~ 660万円

 S × 20% +  54万円

  661万円~ 1,000万円

 S × 10% + 120万円

  1,001万円以上

 S  ×  5% + 170万円

繰り返しますと、給与収入は、上記の給与所得控除額を差し引いた残りが、個人所得税の課税所得です。蛇足ながら、その課税所得の金額から、上記の所得控除額を差し引いて最終的な課税所得を計算します。そしてそれに税率を掛ければ、個人の税額の総額が算出されます。

法人成りして法人(会社)から給与を取りましたので、会社の利益は減ります。その分、法人税は減ります。では法人の利益(課税対象)に対する法人税率は幾らですか?

それは、次のとおりです。ただここでは、資本金1億円以下の中小企業で、利益が2500万円以下の普通法人(株式会社、合同会社、合資会社、特例有限会社等)だけの話をします。


税 目

  所得額による区分 (注: 税額は税目ごとで各部分の合計)

 税 率

法人税

法人の所得(利益)が年800万円以下の部分

  18%

法人の所得(利益)が年801万円以上の部分

  30%

法人住民税

法人税額が1,000万円以下  法人税(CT)×17.3%

約3.1%

法人税額が1,001万円以上  法人税×20.7%

約6.2%

法人事業税

法人の所得(利益)が年400万円以下の部分  

約5%

法人の所得(利益)が年401万円~800万円の部分

  %

法人の所得(利益)が年801万円以上の部分

  5.3%

法人所得(課税対象利益)が300万円の場合は、税率は巷で概算法人税率と云って紹介されることが多い約40%とは違い、約26%が正しい。その40%が間違えているのではなく、小企業の法人税等(法人税・法人住民税・法人事業税)の税率が、特例として低いと考えて下さい。

① 法人税 300万円 × 18% =    54万円
② 法人住民税 54万円 ×17.3% ≒   9.3万円
③ 法人事業税 300万円 × 5% =   15万円

    合計(法人税等); ① + ② + ③ =78.3万円
    税率:  78.3万円÷400万円(利益) ≒ 26.1%


法人・個人を通じた税額の管理(税金戦略、タックスプランニング)としては、上記の情報を使って、社長の会社と社長の給与が、合計で最低の税負担となるように計画すれば良いことになります。

例えば、法人税の利益が300万円と計算される場合で、社長が給与を取っていないときは、社長の給料を幾らにすれば、会社の法人税等と、社長個人の所得税・住民税が、税額として最低になるかを、シミュレーションすれば良い訳です。上記の所得税速算表で300万円全額を役員報酬にすれば、節税できたことになります。

これを、実務に則して下記3つの各税額を比較してみましょう。
この比較・検討により、アアクス堂上税理士事務所は、お客様の信任を得ていると云っても過言ではありません。この場合、役員報酬の見積もりが大切です。そのため、お客様からは経営計画の数字を戴くことにしています。それにより、役員報酬の取り方が妥当な数値、または役員報酬額の最適値として、お客様にご指導できる訳です。さあ、能書きはこれぐらいにして、実際に学習してみましょう。

(1) 法人所得(利益)が、
 役員報酬なしで300万円
 役員報酬300万円を取った場合、所得0円
 役員報酬が300万円


① 法人税等 0万円×26.1%=0万円→均等割り7万円が掛かる
②a. 給与300万円の課税所得=300万円-{300万円×30%+18万円}=228万円
③a. 個人所得税と住民税 228万円×20%-9.75万円≒36万円(12%)
④ 個人・法人を通じた税負担額は、①+③a. ≒約43万円(実効税率14.3%)


(2) 法人所得(利益)が、
       役員報酬なしで300万円
       役員報酬400万円を取った場合、所得△100万円
   役員報酬が400万円

給与400万と見込んでしまった場合(見積誤差100万円);

②b. 給与400万円の課税所得
=400万円-{400万円×20%+54万円}=266万円
           なお、法人は赤字100万円が、翌期繰越となります
③b. 個人所得税と住民税 266万円×20%-9.75万円≒44万円(11%)
④ 個人・法人を通じた税負担額は、①+③b.≒約51万円 (実効税率12.6%)


(3) 法人所得(利益)が、
        役員報酬なしで700万円
        役員報酬700万円を取った場合、所得0円
   役員報酬700万円

②c.  給与700万円の課税所得 =700万円-{700万円×10%+120万円}=510万円
③c. 個人所得税と住民税 510万円×30%-42.75万円≒110.2万円(15.7%)
④ 個人・法人を通じた税負担額は、①+③b.≒約117万円(実効税率16.7%)


(4) 個人事業のまま事業展開することとした場合

更に個人事業をやって年間300万円の利益がでたとすると、

③ 個人所得税と住民税 300万円×20%-9.75万円 ≒59万円(19.7%)

更に個人事業をやって年間700万円の利益がでたとすると、

③d. 個人所得税と住民税 700万円×33%-63.6万円 ≒167万円(23.9%)
                  ( %)は実効税率を示す


個人の税金((3)の③)は、個人事業で利益が300万円でると、法人で400万円の役員報酬をとった場合(2)と比べ尚、法人成りした法人の方の税額((2)の④)が有利ではありますが、更に法人運営のご苦労8万円をバッファーとすれば、ほぼ拮抗する状態です。

法人では個人出費の経費が損金になりやすい点を考慮して、個人事業での利益300万円程度が、規模的な観点から、実務的には法人成りか個人事業のまま継続かの判断の分岐点となると思います。ただ個人所得税の所得控除の誤差や、利益修正等不測の不利益を考慮して、アアクス堂上税理士事務所では、税務顧問(決算申告料込み)年6万円ベースの費用を考慮して尚、大変に保守的な立場で個人事業400万円が法人成りの目安と考え、そのように指導しています。

最後にもう一度、法人成りのメリットの出し方を復習しましょう。個人事業を法人化した場合、事業主が給与を取れるので、個人事業の年間利益に相当する金額を、法人で役員報酬として取るということです。そうすると理論上は、法人は毎期、課税所得(利益)はゼロで法人の税負担は、地方税の均等割り7万円だけということになります。実務では役員報酬の取り方がノウハウとして重要です。実務としては、法人の事業年度の2カ月以内に年間の報酬額を決めそれを変更することはできません(定時定額)。その役員報酬の正しい見積のため税理士事務所があると云っても過言ではありません。アアクス税理士事務所では経営計画の数値を社長と打ち合わせして、役員報酬を決めています。以上